静大に入学して、まもなく春フェスという文化祭があった。
僕たち国語科でも、「模擬店を出し、お好み焼きやヤキソバを作って売ろう。」
ということになった。
当日は天候もよかったせいか、料理は予想以上によく売れた。
そのためソースが足りなくなり、「にこちゃん」というあだ名の、
かわいい女の子が 買い出しに行くことになった。
彼女に心ひそかに思いを寄せていた僕は、すかさず後を追った。
静大には、「稲妻階段」と呼ばれている階段がある。
その名の通り、竹薮の斜面に稲妻のような階段が作られているのだが、僕はそこで彼女を見つけた。
彼女は長い階段のちょうど中間ぐらいを歩いていた。
（よし、声をかけるのなら今だ!）
「Ｔさん、ちょっと待って。」
僕は夢中になって、その階段を駆け降りた。
少しでも早く、彼女のもとに行こうとして・・・。
でも、それがいけなかった。
「うわあー。」
彼女の前で、かっこよく止まるはずが止まれず、こともあろうに彼女を抜き去り、
そのまま竹薮の中に突っ込んでしまったのだ。
「えっ、大丈夫？」
彼女はびっくりして僕に近づいてきた。
結局、僕は彼女に肩を抱えてもらって、足を引きずりながら大学の保健センターへ向かった。
男子一生の不覚であった。
こんなことがあっていいものかと思った。
診察の結果、右足首が骨折していることがわかった。
その後、松葉杖での生活が二ヶ月続いた。
仲間は大笑いしたが、大学の坂を登るのも大変だったし、運動もできなくなるし、
風呂にも右足を上げて入らねばならなかった。
しかも、この時、古庄の自動車学校にも通っていて、すでに仮免まで合格していたのに、
免許の取得さえ危うかった。
この話に大笑いする男子、
「先生、そんなんだから振られるんだよ。しょんないねえ。」とあきれる女子。
大うけしたこともあって、家に帰って、この話をした。
「ふふっ、懐かしいわねえ。」
晩ご飯を運びながら、妻が昔のように、にこっと笑った。