夏休みのある日。

朝、起きると、すでに父も母も仕事に出掛けた後だった。

仕方がないので、畳に寝転んでテレビをつけた。

「ルックルックこんにちは！」をやっていた。司会の女性が、隣にいる白衣を着た人と話している。

「目にはね、ビタミンがいいんですよ。」

どうやらお医者さんのようだ。

（なるほど、目にはビタミンか・・・。）

最近、視力の低下を気にしだしていた僕は、この時、ピピッとある考えが頭にひらめいた。

急いで立ち上がると、台所に走った。

冷蔵庫を開いてみた。

「あった！サンキストレモン。」

ビタミンと言えば、くだもの。しかも、レモンには確かビタミンＣが豊富に含まれていることを家庭科で習った。

「目にはね、ビタミンがいいんですよ。」

なるほど。それなら、口から吸収するよりも、直接吸収した方が効果があるに決まっている。

（俺って、本当に頭がいいなあ。）

僕の胸は高鳴った。

さっそく、まな板の上にレモンを置き、包丁で半分に割った。その一つを右手でぎゅっと絞り、ワンカップ大関のコップに汁を入れた。

３分の１ぐらいレモン汁が溜まった。

これで準備はＯＫ！僕は、左手で右目を大きく開かせると、右手にワンカップ大関を持ち、それをゆっくり傾けた・・・。

「ぎゃあー！！」

目から火が出るとは、まさにこのことだ。

大パニック。目が開かない。

その声に、二階から、妹がドタドタと降りてきた。

「どうしたの？お兄ちゃん。」

僕は、ことのしだいを話した。

「ばか！目が見えなくなっちゃったらどうするの！」

４年生の、妹の怒りは、まるで母親のようだった。

僕は無理矢理に目を開かせ、急いで水道水で洗った。

それから洗面所の鏡の前へ行き、右目を見てみた。

真っ赤。すべての毛細血管が浮き出ていた。

この時、僕は失明するかもしれないと思った。

「よく考えてから、行動しよう」

黒板の上の学級目標を見ると、今でもこの出来事を思い出す。