６年生だったある日、テレビで、傘を開いて空を飛ぶすてきな映画を見た。

この場面を見た瞬間、「これだ！」と思った。

次の日、僕は、いつものように近所の子どもたちを集めた。

そして、みんなに言った。

「今から、傘を使って空から降りてくるから、みんな見ていてくれ。

傘を使ってふわあっと降りるんだ。」

低学年の子たちは、えっすごーい、という顔をして、僕を見た。

「空気の抵抗をうまく利用するのさ。」

「さすが、よっちゃん。」みんな感心していた。

説明が終わると、僕は下駄箱から派手なピンクの折りたたみ傘を取り出した。

そして、２階へ行き、窓を開けて外に出て、瓦にのぼった。

口をあけて見上げているみんなの顔が見えた。

「もっと下がって、真ん中をあけて。」

そう言って、傘の張り具合いを確かめながら、僕はピンクの傘を広げた。

僕の頭の中には、昨夜観た映画のすてきなシーンが浮かんでいた。

「じゃあ、そろそろ行くぞ！」

スタートのフォームも決まった。準備はＯＫ。

「せえのー」

下界からの声に合わせ、ついに僕は飛んだ。

だが・・・・・・

すぐ次の瞬間、傘の骨が、Ｙの字のような形にひっくり返り急降下。

そして、そのまま勢いよくアスファルトに叩きつけられた。

みんなが集まってきた。事件だった。

打撲し、内出血が広がった。

あの時見た映画の題名が「メアリーポピンズ」と知ったのは、それから１０年後の２２歳の時だった。

でも僕は、今でも、いつか、ピンクの傘で、空を飛びたいと思っている。