父は鮎釣り、母さんとのり子（妹）は、水遊びをしていた。

僕はというと、例のごとく海パンになって、水中メガネとタモを持ち、付近を探索していた。

今日来た所は、いつもの場所より、かなり下流のため水量が多く、魅力的な深場があちこちにあった。

（ここら辺で、一番深いところはどこかな？）

そんなことを考えながら歩いていると、川の流れが大きく弧を描いている場所を発見した。

「おお、すげえ！」

近づいてみると、大きくうずを巻いている。

水の流れも、ものすごく急だ。

僕は、もちろん、そこに潜ってみたくなった。

慎重に浅瀬からゆっくりと、うずに近づいていく。

しかし、急激に深くなっていることに気づかず、うかつにも足を捕られてしまった。

僕の身体は、まさにアリ地獄のように、すごい勢いで巻き込まれ始めた。

とても抵抗できる状況ではなかった。

どんどん中心に近づいていく。

中心まで行くと、今度は足を引っ張られるような感じで、下に引きずり込まれた。

前回「化けの口」に挑んでいた僕も、さすがに少し焦った。

引きずり込まれながら、体が回った。

僕はあきらめ、顔を上げてみた。

（すげえ！）

まさに洗濯機のように見事に大きなうずができていた。

僕は、巨大な洗濯機に洗われているような気がした。

（こんな経験はめったにできないだろうな。）

そんなことを考えながらも、身体はどんどん下に落ちていった。

そして、ようやく底に足が着いた。

今がチャンス！僕は、上に向かって思い切りジャンプした。

ウルトラマンが変身する時のように。

幸いなことに、僕は再び水面に現れることができた。

そして、持ち前の泳力で、何とか、うずから脱出できた。

水面から出たとき、目の前には、高校生ぐらいのお兄さんたちが数人いた。

そこに母さんもいた。

僕は、母さんに頭をたたかれた。

どうやら、僕がうずに飲み込まれたのを見て、大声で人を呼んだらしい。

僕は、照れながら、お兄さんたちにお礼を言った。

父さんは、というと、相変わらず鮎釣りを楽しんでいた。