「やっぱり大雨だ。」

戦後最大級の台風の接近で、運動会はえん期。

運動が大好きなぼくだが、今日の雨は、あまり悲しくない。

「みんながっかりしているだろうな。」

と思いながら、内心ぼくの心は、わくわくしていた。

実は、こんなに朝早く起きたのも、運動会のえん期を確かめたかったからだけではない。

今日は、ぼくにとって、とても重要な日なのだ。

夏休みから楽しみにしていた釣り番組が朝あるのだ。

　テレビのスイッチを押すと、すでにマダイ釣りの特集をやっていた。

ぼくのお目あては、このあと６時３０分から始まるバス・フィッシングだ。

マダイ釣りの方は、あまり興味がないので、ねながら見た。

マダイ釣りもそろそろ終わりに近づいてきた。

テレビの正面に座り直した。

「ようし、いよいよだ。」

テレビのアナウンサーが、

「釣り自まん、さて次の･･････。」

と言った。そのしゅん間だ。

事件が起こった。

テレビの画面が、とつ然、消えた。

ぼくは、あせった。 とうちゃんを呼んだ。

「直して、早く、早く。」

でも、とうちゃんはぜんぜんあせっていなかった。

「少しすれば、そのうちつくぞ。だいじょうぶだ。」

どうやら、てい電らしかった。

てい電なら、３分ぐらいでつくはずだ。

ぼくは、ほっとした。

そして、画面が消えた時、テレビの時計が、２４分だったことを思い出した。

「まだ６分もある。それまでにはつくはずだ。」

ぼくはリモコンのスイッチを押したり、はなしたりしながら、その時をじっと待った。

１分、２分、３分･･････。 しかしつかない。

３０分を過ぎた。 でも、つかない。

３５分になった。 まだ、つかない。

「ああ、バス・フィッシングが終わっちゃう。」 とさけんだ。

そして、今度はひたすら祈った。 神様にも祈った。

　７時になった。

終わってしまった。 すべては終わった。

ガーンと頭をたたかれたような気持ちだった。

７時４分、やっと画面がついた。

円高、ドル安という朝のニュースをやっていた。 ぼくは泣いてしまった。

　運動会だけでなく、ぼくが一番楽しみにしていた番組までうばってしまった台風12号。

ぼくは、この１２号を決して忘れない。 みんな以上に落ちこんだ朝だった。