僕は、長距離走が得意だった。
短距離は持って生まれた才能によるところが大きいけれど、
長距離は努力によるところが大きいのも魅力だった。
僕は、やせていたので長距離向きの体つきであったが、すぐ貧血を起こすのが弱点だった。
だからゴールしたあと、よく吐いた。
試合前には、食事にも気をつけていたが、それでもよく吐いた。
僕は、これが、すごくいやだった。
特に、同学年の女の子たちに、自分が吐いている姿を見られるのは、絶対いやだった。
僕にとって、ゴールしたあとが、闘いの第２ラウンドの始まりであった。
（いかに、みんなに気づかれずに吐くか。）
これは、本当に切実な問題であった。
実際、試走会やマラソン大会などでは、順位カードをもらったあと、
みんなが、他の人のゴールに注目しているのを確認して、
さりげなく抜けだし、校庭の陰に行き、よく吐いた。
そして、再び順位の列に並ぶことが多かった。
（幸いなことに、ゴールしたあと僕が吐いていることは、誰にも気づかれることはなかった。）
がんばれば、がんばるほど順位が上がり、注目されて、見られる危険度が増していく。
毎回、このジレンマとの闘いだった。
今思うと、なぜそこまで、がんばれたのかと不思議に思う。
あれから２０年。
そこまで無茶はできないけれど、
今年こそ、ハーフマラソンで時間内にゴールできるようにがんばるつもりだ。