ぼくらが小学生の頃、「銀玉鉄砲」が流行っていた。

そのころは、よく近所の仲間たちと徒党を組み、

いい軍、わる軍に分かれて、近所の家の塀や、ブロックの裏や、

原っぱの草むらなどに隠れて、銀玉鉄砲で戦いをした。

　その戦いの中で、いまだによく覚えている出来事がある。

それは、女ボスとの戦いだ。

女ボスは、僕より、３つか４つ年上だった。

普段から、その女ボスは強く、僕はよく怒られていた。

常々何とかしてボスを見返してやりたいと思っていた。

そして、思わぬところで、その機会を得た。

その戦いの時も、やはり女ボスに追われ、逃げ場を失い、僕は絶体絶命だった。

（また、ボスにやられるのか・・・。）

そう思った僕は、捨て身で、振り向きざまに、ボスに向かって、銀玉鉄砲をうった。

距離もあって、ボスは運動神経もよかったので、玉は当たらないだろうと思ったが、

なんと、その玉が女ボスに命中したのだ。

（やったあー。）

ボスが鼻を押さえている。そして、ボスの動きが止まった。

（あれー。どうしたんだ。いつもなら、怒って追っかけてくるのに・・・）

　僕は、恐る恐る近づいた。

　驚いたことに、僕のうった銀玉は、女ボスの右の小鼻に入ってしまったのだ。

（うそだろう。）

　ボスは、銀玉を出そうと、必死だった。鼻息が聞こえてきた。

数回の鼻息の後、小鼻から銀玉が出てきた。

（よかったー。）

　でも、この後、再び、ボスに追っかけられたことは言うまでもない。

　このことがあってから、僕は、人に、鉄砲を向けるのをやめた。

　 　「銀玉鉄砲」も「女ボス」も、今では、なつかしい思い出である。