めろんは生まれ故郷へもどってきた。

覚えていないと思うが、彼女は２年前ここで生まれた。

あの時、ここで目が合った瞬間、彼女と一緒に暮らすことに決めた。

さて、今日どうして再びここへやってきたのかというと、

実は、めろんのお見合いのためである。

　しかし、案の定、雄たちと気が合わない。

めろんパワーにみんな、たじたじ。

「こんな気が強い子、めったにいないよ。すごいなあ。」

誉められているというか、半ば呆れられているようだ。

確かにめろんは気が強い。

　結局、口輪をかけて、交配することになった。

この様子を初めて見た僕は、すごくショックだった。

もう絶対めろんに交配はさせないと強く心に誓った。

帰りの車の中では、僕のひざの上で、ぐったり寝ていためろん。

「ごめんね、めろん。」

僕は、何度もつぶやいた。

犬は交配してから、だいたい６０日ぐらいで出産をむかえるそうだ。

４月２８日。いよいよゴールデンウイークに突入。

と同時に、おなかの大きくなっためろんに落ち着きがなくなった。

僕が作った１ｍ四方の大きな箱に入り、同じところをグルグル回っている。

後ろ足が、ガタガタふるえ出している。

「いよいよ出産か。」

めろんは、ぼくをずっと見ている。

「一緒にいてやるからね。」

その時から寝ずの番が始まった。

ところが・・・・・・

午後１１時になっても生まれてこない。午前１時、２、３、４時、まだ生まれてこない。

午前５時、だんだん部屋が明るくなってきた。

そして午前６時４０分、ついに一匹目が生まれてきた。

めろんが一生懸命、子どもの身体をなめてやっている。

そのあと、僕もお湯に浸したタオルで身体をふいてやった。

それから午前８時２０分、二匹目が生まれてきた。

そして１０時、三匹目が生まれてきた。

順調、順調。よかった。よかった。

先日のレントゲンで、子どもが五匹いることがわかっていた。あと２匹。

しかし、ここからが大変だった。

その後、午後１時、２時、３時になっても、４番目の子が出てこない。

僕は、あせった。

めろんを車に乗せて、動物病院に連れて行くことにした。

しかし、待合室で待てども、待てども、名前が呼ばれない。

めろんの顔は、苦痛にゆがんでいた。

息も非常に荒い。もう待ってなんかいられない。

僕は、その病院を飛び出すと、２４時間体制のもう一つの動物病院へ行くことにした。

その病院へ行くと、そく緊急手術ということになった。同意書にサインし、手術が始まった。

手術が終わった。

奥のほうから、エリマキトカゲのような大きな輪を首にかけられためろんがよろけながら近づいてきた。

僕は、ありったけの声で、「めろーん」と叫んだ。

めろんは僕の胸の中に身を沈めた。

僕は、めろんを抱きしめ、泣きそうになった。

　「まだ麻酔が効いていますが、もう大丈夫ですよ。

４番目の子が大きくて、産道につまっていたんです。その子は、残念ながら亡くなっていました。でも・・・」

と言って、箱に入った一匹をくれた。身体は小さいけど、泣き声は大きかった。

こうして、めろんと末っ子（ロビン）は命を助けてもらった。　

　めろんのおなかを見ると、切られた部分が上手に縫ってあった。

「ほんとうにありがとうございます。」

ぼくは、丁寧にそして深々とおじぎをした。それからポケットからお財布を出した。

「おいくらですか。」

「はい。合計で８万８６１円です。」

　ぼくは、また泣きそうになった。