小学生のとき、マラソンの練習のため、時々家の回りを走っていた僕は、よく犬に追っかけられた。

あのころは、まだ野良犬も多く、その姿を見かけると決まって回り道をした。

しかし犬の方は、僕の姿を見つけると、わざわざ遠くから追いかけてきた。

僕は、悲鳴をあげながら、手を振り上げ、犬を追い払っていた。

　そんな体験から、僕は、犬が好きではなかった。

しかし、５年ほど前の冬、蓼科高原のピラタススキー場の近くのペンションに泊まった時のことだった。

おいしいフランス料理を頂いた後、隣の部屋のソファーで、その家の

おばあちゃんと話をした。

「うちのオーナーの料理は、どうでしたか？」

「すごくおいしかったです。おなかいっぱいですよ。」

「そう、よかったわ。」

「うちのオーナーは、元々は大学の研究室に勤めていたのよ。」

「へえー。」

「でも、フランス料理の修業に、ヨーロッパにも行っていたの。」

「私とおじいちゃんは、元々本屋さんだったのよ。」

おばあちゃんは、にこにこしながら話をしてくれていた。

その時だ。

「忍者はっとりくん」に出てくる、しし丸のような動物が、

こっちに近づいてくるではないか。

「なんだ、なんだ、おい、おい、おーい！」

その動物は、僕の近くに来て、においをかぎ始めた。

よく見ると、足が短い。

そして、しっぽがない。

「これ、犬ですか？」

「そうよ。コーギーっていう種類の犬なのよ。」

コーギーと僕との最初の出会いであった。

「名前は、くりっていうの。体重が２０Kgもあるのよ。」

くりちゃんは、とても穏やかで、賢かった。

きつねみたいだけれど、きつねのようなするどい顔つきではない。

とても、かわいい。僕もコーギーがほしくなった。

　それから２年後の秋、浜松でめろんと出会い、僕もコーギーと暮らすことになった。

毎年冬は、おいしい料理、おいしいワイン、

そして、くりちゃんに会いにそのペンションへ行く。

めろんも、積もった雪の上を走るのが大好きなようだ。

とても素敵なペンションです。

（JRのCM風に）「でも、その場所は、・・・教えません。」