「只今、県中部に台風１２号が接近しております」

この日、静岡には戦後最大の台風が接近していた。もちろん外は大雨。

屋根や窓ガラスを打ちつける横なぐりの雨や風を怖がったのか、

クーガはハウスから出てこない。

めろんの方は、というと、じっと僕の顔を見ている。

「ごめん、めろん。今日は台風で大雨だから、散歩には行かれないよ」

この言葉に、毎日、散歩を楽しみにしているめろんは怒った。

「なんでだよ。雨でも散歩へ行きたいよ、大丈夫だから行こうよ」

そう言っているかのように、僕に吠え続けた。

しかし、こんな状況では、到底散歩には出かけられない。

僕は、めろんから目をそらすと、テレビ番組を見始めた。

やがて、鳴き声も止み、隣の犬の部屋は静かになった。

（めろん、あきらめて寝たかなあ）

そっと、めろんの様子を覗いてみた。

すると・・・・・・

部屋の真ん中に、おしっこがしてあった。

そして、その隣に、うんちもあった。明らかに僕への抗議行動だ。

「めろん。おまえ、わざとしたなあ」

めろんは、ベロを出し、してやったりという顔で僕を見ていた。

「そんなことしても、今日は絶対に無理だよ。

こんな時に散歩したら、ずぶ濡れになるし、川の水に流されちゃうぞ」

そう言いながら、おしっことうんちを片づける僕に再びめろんが吠え始めた。

僕はシカトして、再びテレビ番組を見始めた。

しばらくして隣の部屋で、ゴソゴソ音がしたが、無視してテレビを見続けた。

二十分ほどで番組が終わったので、再び、めろんの部屋を覗いてみた。

「なんだあ、この部屋は！？」

なんと、トイレットペーパーがひきちぎられ、部屋中に散乱している。

どうやら、机の上に置いてあったトイレットペーパーを下に落とし、

グルングルンと首を振っては、ちぎる行為を繰り返したようだ。

その証拠に、めろんの体には、なんとミイラ男のように、

トイレットペーパーが巻き付いていた。

「そんなに行きたいのか」

そう言うと、めろんは、ワンワンと吠えた。

めろんは、日本語を理解していると改めて思った。

「仕方ないなあ。じゃあ、散歩行くか？」

そう言ったと同時に、めろんが僕に抱きついてきた。

「父ちゃん、有り難う！」

そんな感じで、僕の顔をペロペロ舐めた。

すると、ピンクのハウスから、おずおずとクーガも出てきた。

「めろん母さんが行くなら、僕も行く」

そんな顔をしていた。

めろんは、超ご機嫌で、階段を滑るように下りていった。

クーガも、その後に続いた。

大雨の中、僕たちは急いで車に乗ると、日本平へ出かけた。

驚くことに、いつもの散歩コースの山道には、鉄砲水が流れていた。

僕とカミさんは躊躇(ちゅうちょ)したが、めろんとクーガは大喜び！！

いつものコースを、先頭を争うように、どんどん進んでいった。

降りしきる雨の中、全員がびしょ濡れ状態であった。

帰りの車の中は、水浸しになった。

家に帰ると、二匹の体をタオルで丁寧に拭いてやった。

その後二匹は、気持ちよさそうに、ぐっすりと寝てしまった。

めろんは、いびきをかきながら寝ている。

「めろん、風邪ひくなよ」

僕は、めろんの耳元でつぶやいた。